宮部みゆき。
もう読む本に困ったら宮部様ってなもんで、ほんとにハズレがないねえこの方は。
いろんな人の財布の一人称で語られる短い章が積み重なって全部でひとつの物語。なんせ語り部が財布だから、財布がうかがい知ることができる情報だけしか書いてない。財布の持ち主がどこを歩いてるのかわからないし、地名も出せない。たいていはポケットや鞄の中に入っているから視覚情報もあんまり無い。(財布が外に出されたときは周りを見ることができる)。でも、読んでるこっちはぜんぜん不自由な思いをしない。すんなりと物語が入ってくる。
すごいテクニック、なのだろう、たぶん。でもそこは宮部様なのでぜんぜん難しいとか大変そうとかいう感じを受けなくて、いとも簡単そーに書いてるように感じる。すごい。
あと、財布がかわいい。それぞれの財布はそれぞれに持ち主を愛していて、財布なりの表現でその心情を語る。
「叩かれたんだ、と気がついて、あたしは恐ろしさと腹立ちでけばがたちそうになってしまった。」
「この男は、恵里子さんと無理心中するつもりなのかも知れない。そう思うと、わたしは口金がカタカタ鳴りそうだった。」
財布が心底怒ったり怖がったりしてるとこ想像するだけでおもしろい。いい本。